制服まとめ
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射殺事件から一夜明けた滋賀県警の河瀬駅前交番前(2018年4月12日、彦根市)
射殺事件から一夜明けた滋賀県警の河瀬駅前交番前(2018年4月12日、彦根市)

 彦根市の警官射殺事件で、大津地裁判決の要旨は次の通り。

【主文】被告を懲役22年とする。

【犯行の経緯】 2017年4月に滋賀県警察官を拝命した被告は、警察学校卒業後、彦根署に赴任して同署管内で勤務し、18年3月26日から同署河瀬駅前交番に配置され、井本光巡査部長(以下「被害者」という)ほか1名の警察官と共に勤務していたが、書類の細部の訂正を繰り返し指示されるなどして被害者から指導、注意を受けることが続いていた。

 被告は自信を失い、適性がないように感じて劣等感を強め、高校卒業後、念願かなって成就した任官がここで頓挫し、職を失うのは耐え難いとして自尊心にとらわれ、退職の選択もできないまま悩みを募らせるうち、むしろ被害者の指導が理不尽ではないかとの思いを抱き、反感を募らせていた。

 同年4月7日、もう1名の相勤警察官が急きょ入院し、当面、被害者と2人きりで勤務をこなす機会が増えることとなった被告は、同様に思い悩む時間が続くものととらえて暗たんたる心境になっていた。同月11日、通報に応じて出向いた先の現場で被告は被害者の指示内容を果たせず、交番で被害者から厳しく叱責され、「お前のできの悪さは親のせいか」などとなじられ反感、憤りを一気に強め、うっ積していた自責、他責の念を晴らそうと考え、殺害を思い立った。

【責任能力の判断】

 弁護人は、拳銃発射と殺人の犯行時の被告について、適応障害等の精神面の不具合により、意識狭窄(きょうさく)や衝動性の抑制が困難になるなどの状態に陥り、善悪の判断能力・行動の統制能力が著しく減退し、心身耗弱であった疑いがあると主張する。

 精神鑑定や心理鑑定の結果によれば、精神疾患の病歴はないものの、その劣等感の強さなどから思い悩むうち出現した精神症状として想定できるものがあり、意識狭窄、現実感の欠落、離人感の出現、思考の硬直化等が挙げられる。これらの症状が出現し、被告の各能力を著しく減退させていたか否かを吟味してみたが、程度の強い減退があったとはいえない。

 現場の様子が撮影された防犯カメラの映像や、全般的におおむね記憶を保持しているとうかがわれる被告の公判供述等によれば、犯行時と少し前にさかのぼる頃の言動に、周囲の状況の認識が欠けている様子を示すものはない。視野が極度に狭まっている様子もなく、むしろ、事態に対しある程度の見通しをもって整然と対応し、衝動の抑制が働いていたことを表す事実が以下のとおり多数認められる。

 被告は交番で被害者と席を並べ、夕食用の弁当を食するなどして平静な行動状況を示したのち、気付かれないうちに被害者の背後の間近に位置し、拳銃発射の犯行に及んでいる。

 その際、あらかじめ離れたところで拳銃の撃鉄を起こしておき、狙いをつけて引き金を引く動作で1発目の発射を遂げている。被害者が机に突っ伏すと再び狙いをつけ、撃鉄が降りている拳銃の引き金を強い力で引くことにより撃鉄が起き、これが降りて射撃に至るという動作で2発目の発射を遂げ、発射間隔7秒間にこれらの所作を意図的に選択している。

 身に付けていた警棒等よりはるかに殺傷能力が高い拳銃を的確に用い、反撃に遭わないうちに確実に殺害を遂げる方法を、行動を統制しながら円滑に遂げたことを示す事実といえる。

 また被告は弁当を食べ終わる頃に殺害を決意したが、拳銃発射までに約12分間が経過しており、傍らに被害者が存在する状況にもかかわらず、攻撃を直ちに開始しなかった。

 被害者の背後に立っていったん拳銃を構えるも、その場面で発射せず、交番内の休憩室に戻って飲み物でのどを潤すなどしている。この行動は拳銃を発射して殺害に及ぶことの重大性を認識しているがゆえに踏み切れなかったことを示しており、衝動を抑え込む能力を十分に保持していたと認められる。

 そうすると、当日も被害者の前で畏縮し、指示に返答するなどの反応もできず硬直する様子であったことなどの事情を考慮に入れても、犯行時に前記各症状の影響が強く及んでいたとは認められない。

 防犯カメラが作動している交番内で犯行に及ぶなど意識範囲の一定の縮小はあったし、犯行自体が突発的で見通しを欠くことも明らかだが、少なからず切迫した心理に陥る犯罪の局面一般と比べて特に異常さがあるとはいえない。

 射殺後の行動も、パトカーを運転して途中で水田に進入してしまう事態に陥るほか、歩いて逃亡する過程でも場当たり的に行動している節がうかがわれるが、交番から立ち去る際に施錠をしたり、折からの訪問者に整然と対応していったん退去させたりするなどの一定の深い思考を伴う所作も多く見受けられる。事後行動に程度の強い能力の減退を示すものがあるとはいえない。

 犯行時、前記各症状の一部が幾らか現れていたとは認められるものの、それらが強く影響を及ぼし善悪の判断能力と行動の統制能力の双方、またはいずれかが著しく減退していた疑いはなく、心神耗弱であったとの合理的な疑いを入れる余地はないと判断できる。

【量刑の理由】

 本件は当時19歳とはいえ現職の警察官であった被告が、勤務中に携帯する拳銃を凶器に用い、上司に当たる同僚警察官との関係で募らせていた悪感情を晴らすべく、拳銃発射の方法で殺害に及び、即死させた内容を含む空前の、絶後となるべき重大な事案である。

 公の信託を受けて例外的に拳銃の携帯を許されている警察官が信託に背き、社会を揺るがせる不正な拳銃の使用や所持に及んだ要素が見過ごせない。

 拳銃発射と殺人の犯行は2発もの弾丸を至近距離で撃ち込むという危険で悪質な犯情を備えている。突発的で計画性はないものの、強い殺害の意欲に基づく犯行で、この点の評価は当然に厳しい。

 被告は現場勤務についてからさほど期間を経ていない新人の警察官であった。被告を含む新人警察官の指導・養成は、警察学校でも十分な教育を尽くすに至らず、残りを現場の指導担当者に委ねるものの、その個性や余力に依存するところが大きく、新人の特性との組み合わせ次第により達成度に差を生じかねないものであったとうかがわれる。

 その未熟な警察官が拳銃を携帯していることを踏まえると、組織の指導、養成の在り方が検討されるべきであったと考えられる。結果として、言葉遣いは厳しいものの熱意を込めて指導に当たっていた被害者の思いは伝わらず、かみ合わないまま、いまだ社会性が乏しい上に劣等感が強い被告が感情をうっ積させ、犯行が引き起こされた側面も認められる。思い悩んだこと自体については一定の理解ができる。

 しかしながら、周囲の同僚、上司、家族らに悩みを打ち明け、相談を持ち掛けるなどして事態の打開を図ることが、当時の被告にできなかったとは認められない。

 被告と被害者が一緒に交番勤務をこなすようになってからわずか5回目の接触の機会に犯行に及んでいる。もう1名の相勤警察官の復帰が見込まれていたことにも照らし、事態の好転を待ちながら、穏当な対策を探る余地のある段階であったといえる。自尊心にとらわれていたというのであるが、他害を回避しない理由にはならない。年若い世代であったことを考慮しても大きくは変動しない。

 年齢を考慮に入れつつも、拳銃を携帯する意義等に係る教育を受けていた被告は、最終的に犯行直前、腰に下げている拳銃の存在に意識を及ぼした時こそ、警察官の本分を思い起こし、凶行を思いとどまるべきであった。

 射殺を含む本件各犯行に及ぶこととしたその意思決定に向けるべき非難の程度は、強いものとならざるを得ない。

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